サッカー・ワールドカップ(W杯)北中米大会で、元日本代表・本田圭佑さんの率直で感情のこもった解説が共感を呼んでいます。大阪体育大学スポーツ科学部スポーツマネジメントコースの藤本淳也教授はスポーツマーケティングの視点から「スポーツ観戦の価値は勝敗やプレーの巧拙だけでなく、試合の流れの中で生まれる感情を含めた体験全体に大きな魅力がある」としたうえで、本田さんの解説について、「その瞬間の感情を率直に表したことで、視聴者の感情を代弁する『となりの客目線解説』として受け止められた」と分析しています。
日本対スウェーデン戦は日本時間26日(金)午前8時キックオフ。NHK総合で本田さんが解説する予定です。
なぜ本田解説は共感されたのか。藤本教授に聞きました。

大阪体育大学・藤本淳也教授(スポーツマーケティング)

大阪体育大学はスポーツSDGsを推進しています
緊張、高揚、もどかしさ、驚きの体験も観戦の魅力
本田圭佑さんの解説が大きな反響を呼んでいる。率直で感情のこもった語り口が注目されたが、この現象は単に「解説が面白かった」というだけでは捉えきれない。スポーツマーケティングの視点から見ると、そこから現代のスポーツ観戦者が何に価値を見いだしているのかがよく理解できる。
今回の反響を考えるうえで、まず押さえておきたいのは、スポーツ観戦の価値は勝敗やプレーの巧拙だけで決まるものではないということである。試合の流れの中で生まれる緊張感、高揚感、もどかしさ、驚きといった感情を含めた体験全体にこそ、大きな魅力がある。
スポーツは、もともと体験として消費される性格の強いコンテンツである。ファンは、何が起きたかという事実だけを見ているのではない。その場で自分がどう感じたか、そしてその感情をどのように味わうかまで含めて、スポーツを楽しんでいる。だからこそ、解説もまた単なる補足情報ではなく、観戦体験を形づくる一つの要素として受け止められる。
本田さんの解説が多くの視聴者の印象に残ったのは、整った説明や無難な表現よりも、その瞬間の感情を率直に表したからであろう。視聴者にとってそれは、単に特徴的な話し方だったということではなく、「自分たちと同じ温度で試合を見ている」という感覚につながったと考えられる。言ってみれば、本田さんの語りは、視聴者の感情を代弁する「となりの客目線解説」として受け止められたのである。
試合の空気に反応し熱を言葉に乗せた
ここで鍵になるのが「共感」である。視聴者は解説者に、知識や分析だけを求めているわけではない。自分たちがその瞬間に感じている驚きや不安、興奮を、うまく言葉にしてくれることを求めている。共感できる語りがあることで、観戦経験の価値はより豊かなものになる。
解説の役割は、試合内容を説明することだけではない。視聴者の感情を言語化し、その感情を共有できる形にしていくことにも大きな意味がある。スポーツ観戦の魅力は、出来事そのものだけで完結するのではなく、それがどのように感じられ、どのように共有されるかによってさらに深まっていく。
本田さんの解説が支持された背景には、まさにこの共感の機能があったとみるべきである。感情を抑えて説明するのではなく、試合の空気に反応し、その熱を言葉に乗せたことが、視聴者の観戦経験をより濃いものにしたのであろう。
共感を生む解説は現代のスポーツ消費を構成する価値の一部になった
さらに、日本代表戦のような舞台では、共感の意味は一層大きくなる。視聴者は代表チームを単なる観察対象ではなく、「自分たちのチーム」として見ているからである。代表戦は、「私が見ている試合」であると同時に、「私たちの試合」として経験される。
だからこそ、解説者が同じ方向を向き、同じ熱量で反応することに強い意味が生まれる。そこには、単なる実況や情報整理を超えた一体感がある。視聴者は、解説者の語りを通じて、自分の感情が他者とつながっていることを実感する。その共有感覚が、観戦経験の価値をさらに高めていく。
今回の反響は、本田圭佑さん個人のキャラクターだけで説明できるものではない。そこには、現代のファンがスポーツに何を求めているのかが表れている。いまのファンは、競技の内容だけを見ているのではない。その試合をどう感じ、どう共有し、どう記憶するかまで含めてスポーツを楽しんでいる。そう考えると、解説とは単に試合を補足する存在ではなく、共感を生み、観戦経験を豊かにするメディアとして、現代のスポーツ消費を構成する重要な価値の一部となったのである。
藤本淳也(ふじもと・じゅんや)
専門はスポーツマーケティング。プロスポーツファン研究を中心にスポーツブランド、スポーツスポンサーシップ、大学スポーツ、eスポーツなどの研究に取り組む。担当科目は「スポーツマーケティング」「スポーツスポンサーシップ特論(大学院)」など。学長補佐、大学スポーツコンソーシアムKANSAI(KCAA)副会長。




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