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2026.01.14

部活動改革新ガイドラインの要点は? スポーツ科学部・中尾教授に聞く「部活動の教育的意義、一転再評価」

 文部科学省は昨年12月、「部活動改革及び地域クラブ活動の推進等に関する総合的なガイドライン」(以下、「新ガイドライン」)を公表しました。
 これは、次年度からの改革実行期間(2026~2031年度)6年間の改革の方向性・進め方などについて、国の考え方を示したものです。
 この新ガイドラインへの評価・課題などについて、「大阪府における部活動の地域移行に関する検討会議」で座長を務めるスポーツ科学部・中尾豊喜教授(学校教育学)に聞きました。

中尾豊喜教授 【大阪体育大学】

中尾豊喜教授

 

SDGs


大阪体育大学はスポーツSDGsを推進しています

――― 新ガイドラインをどう評価するか
「地域クラブは学校部活動が担ってきた教育的意義を継承・発展」


 新ガイドラインは次の特徴があります。暴力・ハラスメントの根絶や、活動の回数、時間、安全対策など、特に重要な項目はこれまで同様に繰り返し示されています。

⑴ 学校教育である部活動と、社会教育に位置付けられた地域クラブ活動を、用語、意味を明確に示して整理し、責任の所在を明確にした(地域クラブ活動などの「地域展開」は社会教育。部活動指導員の任用や合同部活動の実践などの「地域連携」は学校教育)
⑵ 改革推進期であった2023~25年度の3年間を終え、2026年度から6年間の「改革実行期間」という次のフレームを示した
⑶ 地域クラブ活動を自治体などが認定する制度にし、各種競技団体のジュニアユース・ユースクラブのチームと一線を画した
⑷ 暴力・暴言・ハラスメント・いじめなどの不適切な行為の根絶のほか、障害のある生徒を含めて、すべての生徒の活動機会を確保しようとしている
⑸ 活動の回数や時間、場所、指導者、移動手段、熱中症対策などの安全確保、大会の在り方など、適切な運営ための体制整備をこれまで以上に詳細に示した
⑹ 教師の兼職兼業、教師の部活動指導力の評価、高校入試の取り扱いについて具体的に示した
⑺ これまでガイドラインの策定者は、スポーツ庁・文化庁だったが、新ガイドラインは文部科学省であり、国の姿勢や覚悟がうかがえる

 この動きに関し、大阪府北部の箕面市などの自治体では、すでに新ガイドラインに沿った地域クラブ活動への改革を実行に移し始めています。各中学校の学校部活動の方針も学校や自治体のホームページで公開されています。これらは都市型改革の典型的で良質なモデルと言えるでしょう。
<箕面市HP>

 新ガイドラインで最も重要なところは、「認定地域クラブ活動」というクラブの組織体制ではなく、「活動」そのものを自治体などが認定する制度が示されたことです(認定期間は最長3年間)。この活動は社会教育に位置付けられますが、新ガイドラインは、認定要件を7項目挙げ、➀の目的・理念で「学校部活動が担ってきた教育的意義を継承・発展させた活動」としました。さらに➆では「学校等との連携」という名称を用いています。
 この考え方は、「地域展開する地域クラブ活動は、地域を仲介した学校教育への揺り戻しである」と私は読み解きました。これまでのガイドラインでは重視されていなかった部活動の教育的意義を、新ガイドラインでは国が再評価しているからです。

中尾教授 【大阪体育大学】

中尾教授

――― 新ガイドラインの課題は
「地域クラブ活動の認定に実行性はあるか」


 課題として、⑴部活動の意義の評価、⑵指導者養成の量と質、⑶財政や経費の3点を挙げます。それぞれ説明します。
⑴ 認定地域クラブ活動の「活動」を認定する制度に、実行性があるかどうか心配です。認定要件①の「学校部活動が担ってきた教育的意義を継承・発展させた活動であり、…」や認定要件➆の「学校等との連携が適切に行われていること」を適切に評価することは難しいでしょう。さらに、最長3年間の期限を決めて、その都度「活動」を認定していくことは容易ではありません。また、これらを実行できる人材は多くありません。そのため、自治体は社会教育担当と学校教育担当の一層の連携が求められます。認定機関を第三者的な位置付けとして、専門性のあるメンバーで認定作業を行うことも検討の余地があります。
⑵ 認定要件➃の「指導体制」では、市町村が定める研修を受講し、登録された指導者による指導を想定して、暴力・暴言・ハラスメントなど不適切行為の防止を徹底するよう示しています。2013年5月や2022年12月に国が部活動指導員の研修内容として例示した16項目は、新ガイドラインにも記載がありますが、指導者の指導観・教育観・子ども観にアプローチしていく指導者養成を、学校の設置者が適切に実施できるかどうか心配です。
⑶ 財政支援、学校施設などの優先利用、使用料減免など、具体的な支援が示されていないことも不安材料です。

新ガイドライン概要<1> 【スポーツ庁サイトから】

新ガイドライン概要<1>
【スポーツ庁サイトから】

――今後、部活動改革で求められることは
「指導観・教育観・子ども観のある指導者養成が最重要」


 最も重要なことは、学校部活動であれ、認定地域クラブ活動であれ、指導者の指導観・教育観・子ども観や実際の指導方法です。指導者による暴力・暴言、ハラスメントは今日も絶えません。生徒の自主的・自発的な活動を保障する環境を指導者が確保して、生徒たちがこの活動に所属してよかったという自己存在感を受け取ったり、「助かった」「ありがとう」などの対話にみられる、友達の役に立っているという自己有能感や有用感を感じたり、自分のことは自分で、自分たちのことは自分たちで決めるという自己決定の機会が用意されているかどうかが重要です。指導者と生徒、生徒と生徒間相互に共感的な理解がなされているかどうか。部活動やクラブの風土が安心安全な環境であるかどうかも大切でしょう。
 これまでの部活動の課題は、どうしても指導者が活動の主体になってしまい、主役の生徒が客体化されていることでした。これを本来の活動に戻す作業が最初に必要となります。それが指導者養成です。スポーツの競技種目や文化芸術の技術的な指導は当然ですが、それを超えた指導能力や人格が求められます。この養成がとても難しいのです。
 日本における「部活動」周辺の研究者は、7、8人でしょう。部活動研究は始まったところです。部活動の意義や歴史を理解して指導者の養成を行うには、学校教育学と体育学・スポーツ科学、文化芸術学のそれなりの学術的な専門性や、教育実践の経験が必要です。

新ガイドライン概要<2> 【スポーツ庁サイトから】

新ガイドライン概要<2>
【スポーツ庁サイトから】

 この意味で、大阪体育大学には、スポーツ科学の専門家、学校教育学の専門家が多数、所属しています。大学のこの特質を社会課題の解消に役立てていくことが、地域社会にある高等教育機関としての社会的な使命だと考えます。
 スポーツ庁が全国の自治体を対象に実施した調査(2024年)によれば、地域展開に向けて運営主体を移していく際の最大の課題として、「指導者の確保」を挙げた回答が最も多く、7割を超えました。学校部活動の教育的意義を継承・発展させた活動を持続させるためには、施設や仕組みという「モノ」や「カネ」も必要ですが、「ヒト」を培い育むことが最も重要な課題です。
 これが、大阪体育大学が指導者養成を実践する社会的役割に取り組む根拠です。本学は、学生対象の「グッドコーチ養成セミナー」、社会人を対象とした「運動部活動指導認定プログラム」を通じて部活動やスポーツを指導する人材の育成を進めています。
 また、地域展開後の学校教育が、部活動に依存せずに、人間性の涵養も含めた教育を実践できるのかどうか問い直される必要があると思います。新ガイドラインが認定地域クラブの認定要件の①として「部活動が担ってきた教育的意義の継承・発展」を掲げたのは、その実践に懸念があると、国が判断したからではないでしょうか。

 部活動改革を通じて、暴力・暴言・ハラスメントの根絶、少子化対策、学校の働き方改革を推進していく必要がありますが、その一方で、部活動の教育的意義を改めて私たちは再確認し、評価し直す必要性もあるのでしょう。

 その意味では、この新ガイドラインの考え方が、今後の中学校・高等学校学習指導要領の総則や、保健体育科、特別活動の記述にどのように影響してくるのか、今年12月に答申が出される学習指導要領の見直しに向けた中教審の動向を注視したいと思います。

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<中尾教授プロフィール>

新ガイドライン概要<3> 【スポーツ庁関連サイトから】

新ガイドライン概要<3>
【スポーツ庁関連サイトから】

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