大体大先生リレーコラム「本物を学ぼう」RELAY COLUMN

教育学部

2026.05.20

「社会問題」への関心が、人生を生き抜く土台を作る

筆者:今堀 美樹(教育学部教授)

1.社会問題を「人権侵害」という視点から見る

 貧困、児童虐待、学校におけるいじめは、「人権侵害」という側面をもつ「社会問題」です。人が安心して生きること、尊厳を持って扱われること、機会を奪われないことという、当たり前であるはずの権利が損なわれている、その背景には社会的な課題が存在するからです。
 しかし、これらの問題はしばしば「自分とは遠い世界の出来事」として受け止められがちです。ニュースとして知ってはいても、どこか実感を伴わない。その距離感こそが、問題の深刻さを見えにくくしている要因の一つでもあります。
 私が授業を通して学生のみなさんに働きかけているのは、こうした「社会問題」に関心を持ち、「この社会で生きるとはどういうことか」という問いに向き合うことです。

今堀美樹教授



大阪体育大学はスポーツSDGsを推進しています

2.他者への関心から、自分の立ち位置へ

 1年生の前期に設定されている授業「家庭と社会」では、日本のワーキングプアの問題を扱い、その延長としてアメリカ社会における格差を描いたDVD教材を取り上げました。そこには、同じ社会の中にありながら、まったく異なる生活を強いられている人々の姿が映し出されていました。
 こうした内容に触れたとき、学生のみなさんはさまざまな反応を見せてくれました。しかし、強弱の差はあっても「社会的弱者」の側に立つ姿勢、つまり「人権侵害」を明確に批判する姿勢が共通して見られました。ただ、そのために自分には何ができるのかという、自分自身への問いに答えを見出すのは難しいです。しかし私は、この「すぐに答えが見出せない問い」こそが、重要だと考えます。なぜなら、「社会問題」に向き合うとは、「正しい答えを知ること」ではなく、「自分はこの問いにどう向き合うのか」という「立ち位置」を探る過程だと考えるからです。
 私自身も、子どもの頃からこの問いに向き合い続けてきました。なぜ世界には幸せでない人がいるのか、という問いを抱き続けてきたことが、社会福祉の研究と教育に向かう「立ち位置」を獲得する過程(道)となったのです。しかし、こうした私自身の「立ち位置」を、学生のみなさんに押し付けようとは思いません。なぜなら、これは私の「立ち位置」であり、学生のみなさんには自分自身の「立ち位置」を自分自身で獲得しほしいと願うからです。

3.人権意識が「生きる力」になる

 「社会問題」に関心を持つということは、自分自身の価値観や生き方、つまり「自分自身の立ち位置を自分自身で獲得する」過程であると考えます。しかし、「社会問題」への関心を持ち続けることは、ときにしんどさを伴います。現実の厳しさや理不尽さに直面することになるからです。しかし同時に、そのしんどさを通してこそ、自分自身の「立ち位置」が獲得できると考えます。
 「人権意識」とは、特別な知識や理念ではなく、「誰かが不当に扱われているときに、それをおかしいと感じる力」です。そしてその感覚は、やがて自分自身を守る力にもなります。社会の中で生きていく過程で、私たちはさまざまな困難や不条理に出会います。そのとき、自分の尊厳をどのように保つのか、他者とどのように関わるのか、この問いを続ける際の基盤となるのが、「人権意識」です。それゆえ、「社会問題」に目を向けることは、他者のためだけではありません。むしろそれは、自分自身がこれからの人生をどのように生き抜くのか、その土台を形づくる行為でもあります。
 学生のみなさんが、自分の立ち位置を自分自身で獲得し、その立ち位置を大切に社会と関わり続けていかれるよう、これからも授業で問いかけていきたいと思います。

キーワード
  • 社会問題
  • 人権侵害
  • 社会的弱者
  • 自分の「立ち位置」

今堀美樹(教育学部教授)

博士(社会福社学)(同志社大学、2023年)。主著は『竹内愛二とキリスト教社会主義運動―ケースワーク論の「科学」と「価値」を問い直す』(単著、ミネルヴァ書房、2026年)。他に、『ソーシャルワークの技能―その概念と実践』(岡本民夫・平塚良子編著)(共著、ミネルヴァ書房、2004年)。『ソーシャルワーク入門―相談援助の基盤と専門職』(空開浩人編著)(共者、ミネルヴァ普房、2009年)。『日本キリスト数社会福社の歴史』(阿部志郎・岡本栄一監修)(共著、ミネルヴァ書房、2014年)がある。

▲