筆者:石川昌紀(スポーツ科学部教授)
1.アキレス腱は伸びていない
体育の授業で「アキレス腱を伸ばしましょう」と言われた経験は、誰にでもあるでしょう。でも、あのストレッチで実際に伸びているのは、アキレス腱ではありません。腱よりもずっと柔らかい、ふくらはぎの筋肉の方が伸びています。 「え、本当?」と思った方もいるかもしれません。私もこの事実を知ったとき、からだの常識が覆される面白さを感じました。私たちのからだには、こうした思い込みや誤解がたくさん潜んでいます。そして、それを一つずつ解きほぐしていくのが、私の専門である神経・筋メカニクス、生体ダイナミクス――からだの動きを解き明かす学問です。


大阪体育大学はスポーツSDGsを推進しています
2.「見えないもの」を観る
私の研究室では、さまざまな装置を使って運動中のヒトの神経・筋肉・腱の動きをリアルタイムで観察しています。身体の中で何が起きているのか。この研究で最も面白いのは、トップアスリートたちとの試行錯誤です。彼らの無駄のない、洗練されたからだを観察しながら、「より速く走るためにどうすればよいのか」「なぜこの動きでケガが起きるのか」を一緒に考え、トレーニングする。選手自身も自分のからだの中で起きていることに驚き、そこから新たな問いやトレーニングアイデアが生まれる。科学とスポーツの現場が出会う瞬間には、いつもワクワクするような発見があります。
3.科学に終点はない、だから面白い
このコラムのシリーズタイトルは「本物を学ぼう」ですが、正直に言えば、私は「本物」という言葉にどこか居心地の悪さを感じています。何かを極めきった先にたどり着くものが「本物」だとすれば、科学にはその終点がないからです。本物って言われたら、研究者としては終わりだなと思いますね。一つの問いに答えが見つかれば、その先にまた新しい問いが現れる。わかったと思った瞬間、わからないことが増えている。それが科学の営みであり、だからこそ面白い。 大阪体育大学では、最先端の計測機器を使って自分のからだを分析する授業があります。超音波で自分の心臓や筋肉、腱を見た学生が、「自分のからだって、こうなっているんだ」と目を輝かせる瞬間に、何度も立ち会ってきました。その驚きこそが学びの原動力です。教科書の知識は大切ですが、自分のからだで確かめたとき、知識は初めて「自分のもの」になり、知恵となり活かしていけます。
スポーツに打ち込んできた皆さんのからだには、すでにたくさんの物語が刻まれていると思います。その物語(個性)を科学の目で読み解く面白さを、ぜひ一緒に体験してほしいと思います。




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