国が中学校部活動の地域展開・連携を今後6年間で実現する方針を打ち出し、全国の自治体が指導者不足などで対応に頭を痛める中で、地域展開をチャンスととらえ、ICTを活用して都会に負けない質の高い部活動指導を目指す過疎の町があります。徳島県の南端、人口約7900人の海陽町。日本を代表するスポーツの総合大学として先駆的な運動部活動改革プロジェクトに取り組む大阪体育大学と連携し、自ら「海陽モデル」と名付けるシステムの構築に取り組んでいます。三浦良(りょう)教育長に町の狙いを聞きました。

大阪体育大学の学生と徳島県海陽町立海陽中学校をオンラインで結んで実施された部活動指導
【四国放送提供】

大阪体育大学はスポーツSDGsを推進しています
町長「地方でも、都会と同じレベルの指導を子どもたちに提供したい」
発端は、三浦茂貴町長の「地方でも、都会と同じ高いレベルの部活動指導を子どもたちに提供したい」との思いだったといいます。
海陽町には海陽、宍喰の2中学がある。宍喰中学の生徒はバスで海陽中学の体育館に行き、バレーボール、バスケットボールの合同練習をしていますが、部活動の指導者不足は大きな課題でした。教員は教科指導で高い専門性を持っていても部活動では専門ではない競技を担当することも多く、保護者から厳しい声が出ることもあったといいます。一方で子どもたちには「もっと上達したい」「専門的なことを学びたい」という思いがありました。
町長の意向を受けて指導スキルがある大学との連携を模索し、地元の海部高校に務める卒業生を通じて、大阪体育大学に協力を呼びかけました。

海陽町・三浦茂貴町長
【海陽町提供】

「海陽モデル」の充実を目指して大阪体育大学を訪れた三浦教育長ら
先駆的な学生によるICT指導を進める大阪体育大学と連携
大阪体育大学は、全国でも先駆的な部活動改革のプロジェクトを進めていました。学生が熱中症対策など安全管理、ハラスメント対策などを学ぶグッドコーチ養成セミナーを2021年度から開講し、中学校などで学生延べ200人以上が部活動指導にあたりました。2023年にソフトバンク株式会社と連携協定を締結し、大阪府泉大津市、貝塚市、大阪市の中学部活動や泉南市の高等支援学校での体育授業、河内長野市の大阪暁光高校アルティメット部、愛媛県松山市の少年野球クラブでICTを活用した指導を実施しています。文部科学省、スポーツ庁が活動を視察し、メディアからの注目を集めています。
4月に遠隔指導スタート
海陽町は、「大阪府における部活動の地域移行に関する検討会議」座長で、部活動改革問題の研究・実践の第一人者の中尾豊喜教授(学校教育学)のアドバイスを受け、昨年12月にICT指導にあたる学生と両中学バレーボール部、バスケットボール部の生徒が集うキックオフミーティングを海陽中学体育館で開催。準備期間を経て、今年4月28日、初の遠隔指導が実現しました。
スポーツ科学部3年の陽本千咲(ようもと・ちさき)さん(大阪・城南学園高校)は大阪から現地をオンラインで結び、基本的なパスの他、アタック、サーブ練習を指導。練習の映像を見ながら、サーブ練習では「目印にしているコーンの位置を変えたら」などと生徒にアドバイスしました。
バスケットボールでは、園田大翔(ひろと)さん(体育学部4年、兵庫・三田松聖高校)、冨士本美咲さん(体育学部4年、大阪・堺西高校)が生徒を指導しました。遠隔指導の模様は地元のメディアで大きく紹介されました。

海陽中学で実施された、ICTを活用したバレーボール部の指導
【四国放送提供】
「ICT指導は地方の子どもにとって『どこでもドア』」
三浦教育長は部活動の地域展開、指導者不足は部活動にとって逆風の面がありますが、新しい試みを模索するという意味ではチャンスととらえます。「ICTは部活動に取り組む子どもたちにとって指導者との距離を一瞬で縮め、まるで『どこでもドア』だ。過疎の地でも専門的な指導を受ける可能性が広がる」と語ります。
また、指導にあたった陽本さんはICT機器の利点として、遠隔での指導以上に生徒たちの主体性向上につながる点を挙げます。「タブレットを見て生徒が自分で課題を見つけ、『この課題どうする?』と生徒たち同士で話し合っている。ICT課題解決力が身に付くようになると思う」と話します。

遠隔指導の課題について三浦教育長らと話し合う陽本千咲さん(右)、大城里緒さん
海陽町は「海陽モデル」の充実を目指し、教育長と全教育委員ら8人が5月26、27日の1泊2日、中尾教授の紹介で部活動改革を進める兵庫県芦屋市と大阪体育大学を視察しました。大阪体育大学の会場では中尾教授、陽本さんと4月28日の遠隔指導の実践課題について話し合いました。陽本さんが生徒との人間関係を円滑にするツールとして、プロフィールカードの導入を提案しました。
また、今後、同町での遠隔指導に携わる予定の大城里緒さん(教育学部1年、沖縄・小禄高校)も同席しました。
海陽町の三浦町長は「海陽モデル」の完成形として「部活動だけでなく、すべての教育で都市部に負けないような教育環境を作りたい」としています。三浦教育長は「小学校の体育の授業の進め方について教員が指導を受けたり、生涯スポーツの分野でも指導を受けたりするなど、大阪体育大学と連携を深めることができれば」と話しています。
三浦教育長に聞きました。
三浦良教育長「教員の学び、生涯スポーツ。『海陽モデル』をさらに拡大できたら」

海陽町・三浦良教育長
――大阪体育大学とのICT連携がスタートした。感想を
中学校の部活動では、海陽中でも指導者不足が大きな課題になっています。教員は教科指導では高い専門性を持っていますが、部活動については必ずしも専門ではない競技を担当することも多く、十分な指導が難しい現状があります。そうした中で、保護者から厳しい声をいただくこともあります。
一方で、子どもたちは「もっと上達したい」「専門的なことを学びたい」という思いを持っています。そうした気持ちに応えるためにも、専門的な知識や技術を持った方から指導を受けられる環境を整えていく必要があると考えていました。
その方法を模索する中で、「大学と連携できれば理想的ではないか」と考えました。ただ、海陽町は地理的に離れており、徳島県内の大学とも距離があります。そんな中、専門的なスキルを持つ体育大学と連携できないかと考え、海部高校で勤務する卒業生を通じて大阪体育大学に相談させていただきました。
実際に連携をスタートしてみて、まだ十分に取り組みが進んでいる段階ではありませんが、今後、子どもたちへの指導面で大きな効果が期待できると感じています。子どもたちや保護者からも期待の声が上がっており、これからさらに連携を広げていきたいと考えています。
――三浦茂貴町長の方針は
町長は、部活動のみならずあらゆる教育分野において、都市部に負けない教育環境の整備を重点施策に掲げています。現在、予算面を含めた強力な支援のもと、具体的な施策を順次実行に移しているところです。
――部活動の地域展開は部活動には逆風だが、新しい試みを模索するという観点ではチャンスと考えるか
チャンスだと思います。プラス面は、教員の負担軽減。さらに子どもたちが地域へ帰ることで地域の方々との関係性も生まれます。もっと専門的に指導者も入れていくので、専門的な指導が受けられるメリットがあると感じています。
――地方から見て、ICT指導に可能性を感じるか
感じます。遠隔指導はコロナ禍を機に広がりました。ICTは部活動で指導を受ける子どもたちにとって指導者との距離を一瞬で縮め、まるで「どこでもドア」のようです。過疎の地でも専門的な指導を受ける可能性が広がると思います。
――2日間の視察の目的は
部活動の地域展開を推進するにあたり、先進地である芦屋市へ視察研修を行いました。中尾先生のご尽力により、現場のリアルな課題や実践的なノウハウを深く学ぶ機会となりました。視察を通じて、指導者の確保が都会も地方も同じ課題であることを改めて確認しました。この現状を踏まえ、今後は専門的なスキルを持つ大阪体育大学と連携を深めることで、本町の実情に即した、質の高い教育環境の整備に尽力していきたいと考えています。
成功のカギは学校内での協力体制の構築
――ICT指導を軌道に乗せるためには、学校内でいかに協力体制を構築するか、町や教育委員会としての指導力も必要だと思うが
ICTの活用は、子どもたちのために実施する町の方針です。方向性をしっかり学校の教員に示していきます。
――「海陽町モデル」をどう発展させていくか
私は大阪体育大学との連携は、部活動だけでなくいろいろな分野で進めていきたい。例えば、中学校には保健体育専門の教員がいるが、小学校には体育の専門教員は少ない。小学校での実技指導もオンラインを活用できないか。教員が体育の授業でどう指導したらいいのか、どのような声掛けを子どもにしていったらいいのか。教員はそんなことを学んでいかなければいけない。また、海陽町は高齢化が進むが、お年寄りの方々は運動をしたいという気持ちが強い。生涯スポーツでも大学と連携することができたら素晴らしいと考えています。
陽本千咲さん(スポーツ科学部3年)「タブレット見てみんなで課題を話し合い、ICTは子どもの課題解決力を養う」

陽本千咲さん
――実際に中学生を遠隔指導した感想は
バレーボール部に新しく1年生が増えて、面白いチームになりそうだなと思いました。半面、この子たちを伸ばすために自分は何ができるのか考えながら指導していきたいと思います。
――ICT指導の可能性についてどう考えるか
とても可能性を感じます。タブレットを見て子どもたちが自分で課題を見つけ、『この課題どうする?』と生徒たち同士で話し合っています。ICTを通じて子どもたちは課題解決力が身に付くようになると思います。
――将来の目標は
教員はもちろんですが、子どもと関わる仕事に就きたいと考えています。
――部活動指導は自分の成長のためにプラスになっているか
海陽町のほか、昨年1月から大阪府藤井寺市の中学校で女子バレーボール部を指導しています。部活動指導を通して、自分自身、子どもにかかわる仕事に就きたいという夢が固まりました。子どもは一人一人いろいろな性格やタイプの子がいて、1人1人に合わせた指導や対応ができるようになりたいとと考えています。その意味では、ICTを通じて海陽町など多くの現場を体験でき、いろいろな子どもと係ることは自分にとってすごくプラスだと思います。
<キーワード>部活動地域移行 ICT部活動指導 部活動指導者不足 大阪体育大学 海陽モデル




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