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2026.02.18

尾縣貢パリ五輪選手団長が大阪体育大学大学院で講演 「スポーツ・体育の課題を捉える」

 大阪体育大学大学院スポーツ科学研究科の研究教育セミナーが2月17日、中央棟大会議室で行われました。筑波大学名誉教授、福井工業大学特任教授で、2024年パリオリンピック日本選手団団長の尾縣貢(おがた・みつぎ)さんが「スポーツ・体育の課題を捉える」をテーマに講演し、教員や大学院生らが参加しました。

大阪体育大学で講演する、パリオリンピック日本選手団団長の尾縣貢さん
【大阪体育大学】

大阪体育大学で講演する、パリオリンピック日本選手団団長の尾縣貢さん



大阪体育大学はスポーツSDGsを推進しています

 尾縣さんは、兵庫県出身。2021年東京五輪では総監督を務めたほか、日本オリンピック委員会(JOC)専務理事・強化本部長、日本陸上競技連盟会長などを歴任。昨年3月、筑波大学を退官しました。スポーツ基本計画や学習指導要領解説の作成など日本のスポーツ・体育の方向性の検討に深く携わりました。
 大阪体育大学スポーツ科学部・大学院の髙本恵美教授(体育科教育学)が筑波大学大学院で尾縣さんに指導教員として師事していたことから、恩師に講演を依頼し、快諾を受けたといいます。
  尾縣さんは「政策として求められるスポーツの意義や価値」「競技スポーツの意義や価値の変遷」「学校体育に求めるもの」の3テーマに分けて講演しました。

研究教育セミナーを開催した髙本恵美教授。筑波大学大学院で尾縣さんに師事した
【大阪体育大学】

研究教育セミナーを開催した髙本恵美教授。筑波大学大学院で尾縣さんに師事した

スポーツ基本計画 コロナ禍で知った絆の尊さ、東京オリパラのレガシーを反映


 「政策として求められるスポーツの意義や価値」では、自ら作成に関わった第3期スポーツ基本計画(2022年度~26年度)について説明。スポーツに必要な新たな視点として「つくる/はぐくむ」「あつまり、ともに、つながる」「誰もがアクセスできる」が掲げられたが、背景として、「あつまり~」は当時、コロナ禍で人の絆が希薄になったことから、「誰もが~」は2021東京オリパラのビジョン「多様性と包摂」をレガシーとして残すためにそれぞれ加えられたなどと解説しました。

軍隊的「勝利至上主義」が戦後も残る


 続いて「競技スポーツの意義や価値の変遷」では、尾縣さんは日本では戦前、スポーツは軍隊教育の手段として使われ、軍隊的な「勝つことに意義がある」とする考えが、1964年東京五輪でも女子バレーボール「東洋の魔女」の猛練習などに表れ、その流れは2000年代になっても続いたとしました。その流れが変わったのは2012年に大阪府内の高校で起きた運動部活動での体罰を背景とした部員の自死事件で、以後、「スポーツ史上最大の危機」として国を挙げて暴力根絶や、新しい時代にふさわしいスポーツ指導法の確立に乗り出しました。2013年に招致が決まった東京五輪の選手団のテーマは「人間力なくして競技力向上なし」になったと説明しました。

研究教育セミナーには大阪体育大学の教員、大学生らが参加した
【大阪体育大学】

研究教育セミナーには大阪体育大学の教員、大学生らが参加した

パリ五輪はメンタルケア重視


 2021年東京オリパラでは、SNSでの選手への誹謗・中傷が相次ぎ、選手の心はズタズタになったといいます。その反省から、チーム・ジャパンは2024年パリ五輪に向けてメンタルケアを重視しました。選手のメンタルケアを担当するウェルフェアオフィサーとして大阪体育大学の土屋裕睦教授ら3名、SNSの誹謗・中傷対策を専門とするセーフガーディングオフィサー1名を派遣。オリンピアンの提言を受け、選手村に安らぎの場としてのカフェをオープンしたほか、「脱メダル主義」を打ち出しました。

部活動地域展開で求められる格差解消


 続いて、「学校体育に求めるもの」のテーマで、部活動の地域展開について触れました。スポーツ庁の調査では、全国の31%の自治体が公立中学校の部活動を2025年度末までに平日も地域移行しますが、世帯年収が低いほど運動・文化部活動への加入率が下がり、自治体の規模が小さいほど、送迎など保護者の負担が増えるなど格差があり、どう解消するかが課題だとしました。
 また、地域における大学の役割として、課題解決に向けた取り組みの経験や知見を汎用的に活用して社会に貢献する人材を育成することが重要だとしました。

講演後、教員、大学院生から活発な質問が寄せられた。パリ五輪でウェルフェア・オフサーとして行動を共にした土屋裕睦教授も質問
【大阪体育大学】

講演後、教員、大学院生から活発な質問が寄せられた。パリ五輪でウェルフェア・オフサーとして行動を共にした土屋裕睦教授も質問

日本でスポーツは文化と言えるのか


 尾縣さんは「パリ五輪では金銀銅メダル45個のうち金が最多の20個を占めた。決勝での強さなど、今の若い選手の力はすごい」など日本スポーツの躍進をたたえましたが、一方で、日本国内でのスポーツへの理解度について、懸念も語りました。
 東京オリパラがコロナ禍のため1年延期されると、スポーツは「不要不急」なものとされ、トレーニングをしている選手が通報され、競泳の池江璃花子選手らに出場辞退を求めるSNSが殺到しました。尾縣さんは「スポーツは一歩間違うと、のけものになってしまう」と実感したといいます。日本は健康寿命ランキング(2024年)では2位でも、幸福度ランキング(2025年)ではG7最下位の55位。尾縣さんは「治安や医療水準が高いのに、なぜでしょうか。我が国では、スポーツは文化と言えるのでしょうか」と語りました。

 講演後は教員や大学生から活発な質問があり、熱のこもった質疑応答となりました。

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