日本プロ野球を運営するNPB(日本野球機構)が、今季から観客がプレー中の選手の写真や動画をSNSに投稿することを禁止する新ルールを定め、日本プロ野球選手会が「ファンから楽しみを奪う」として見直しを求めるなど議論を呼んでいます。プロスポーツのSNS戦略に詳しい大阪体育大学スポーツ科学部・藤本淳也教授(スポーツマーケティング)は「中継局や主催者の権利保護などNPBの方針に理解できる部分はあるが、社会に広くSNS文化が根付く時代にあっては、全面禁止ではなく、リーグがSNSとともに歩む姿勢が重要」と解説しています。
NPBは今年2月、「写真・動画等の撮影および配信・送信規程」を作り、ファンがプレー中に撮影した選手の動画や写真は、原則として試合後も含めてSNSに投稿することを禁じました。動画の投稿を時間など制限付きで認めているバスケットボールBリーグ、バレーボールSVリーグや、動画はNGだが写真の投稿を認めるサッカーJリーグに比べ、厳しいルールです。背景には、違法な無許可ライブの横行などが挙げられています。
藤本教授は「放映権、肖像権の保護を明文化することは重要で、他のリーグのような動画の時間制限などは必要だが、全面禁止はどうかと思う。現在のデジタル、SNS時代においてはSNS文化が根付き、撮影を目的に観光地を訪れる人も多い。運営側は、ファンが求める体験によって得られる価値を、どうファンと共有して高めていくかという視点を持っておかないと、ファンとの間に距離が出てくる。スタジアムに来ている人は、野球を見に来ているだけではなくて場の空間やそこでの応援を楽しもうとしているのであり、楽しみの中には撮影も含まれる。規制が、空間を楽しみたい、レジャー・エンタメとして野球を楽しみたいというファンから楽しみを奪うことにつながらないか危惧される」と話します。
NPBの規制を巡っては、北海道日本ハムファイターズがいったん、ライブ中継に準ずる行為でない限り、選手のプレー中の動画などをSNSに投稿することを許容しましたが、NPBから改善勧告を受けました。
藤本教授は「(本拠地の)エスコンフィールドHOKKAIDOには工事中を含めて4回行った。野球を楽しむというよりも空間自体を楽しむ設計がなされていて、日本ハム球団はファン目線で「楽しさ」を情報発信することの価値を深く理解している。消費者が消費者に「楽しさ」を伝えるのは、SNS時代では当たり前であり、私は情報発信に線を引かない方がいいと思う」と語ります。
藤本教授によると、イギリスのプロサッカー、プレミアリーグは試合の動画投稿を禁じていますが、これは試合の放映権料が極めて高額で、リーグとして放映権を第一に考えていることが背景にあるといいます。藤本教授は「プレミアリーグはサッカーで盛り上がるコアなファンが多いが、米国型のMLB、NBAは、日本のJリーグもそうだが、競技を楽しむだけではなく、スタジアムにいること自体の楽しさを売りにしている。これらのリーグのスタンスは、投稿動画の時間制限、商業利用の禁止などのリスクヘッジを取ったうえで、基本的にはファンにどんどん発信してもらいながら、課題が出たら示しておいたガイドラインで対応していく方針だ」と話します。
スポーツイベントは歴史的に新聞、ラジオ、映画、テレビ、インターネットなど時代時代のニューメディアの力を借りて発展してきました。藤本教授は「SNS時代にあっては、リーグとSNSが共存し、ともに新たな文化をつくっていく姿勢が重要だ。消費者やファンは、今やSNSを使ってチームのプロモーションに参画する立場であり、ファンのSNSとリーグの方針を融合する道を探り続けるしかない。投稿を禁止するよりも何を推奨するのかを明確に打ち出し、インスタスポット、映えスポットも整備して、どんどん撮ってくださいというように、ともに歩んでいく方向を目指した方がいい」と解説しています。
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