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2020.03.30

【東京五輪延期】「前向きにスポーツ振興策を考える1年に」冨山教授が語る

 東京オリンピック・パラリンピックの延期について、地域密着型のスポーツマネジメントなどを研究する冨山浩三・体育学部教授は延期を前向きにとらえています。「それで終わりの打ち上げ花火のようなイベントになりがちだったものが、一年延びたことで事前合宿などの招致を契機にどのようにスポーツ振興につなげられるか考える猶予が与えられたと思えば、一過性のイベントに終わらせない事前の活動に十分時間を使えるはず」などと語ります。

<以下、寄稿文です>

 東京オリンピックの一年程度延期が決まりました。大変残念ですが、世界のこの状況の中でやむを得ない決定ともいえます。そのことで大きな課題に直面している方々にエールを送りたいと思います。

 選手選考だとか、チケットの払い戻しだとかが話題になっていますが、ここでは国民生活についても考えてみたいと思います。オリ・パラの開催にあたっては、レガシープランを策定して大会後に何を残すのか考えてきました。オリンピックレガシーは、三つの基準で考えることができます。それは「目に見えるかどうか」「計画的なものか」「そしてポジティブなものかどうか」です。目に見えて計画的でポジティブなレガシーとしての、競技場の建設や道路などの整備が注目されがちですが、目に見えない・非計画的なものもあります。例えば、スポーツ庁ではオリ・パラを、国を挙げてのスポーツ振興に役立てようとしています。東京以外のまちでは、事前合宿などを誘致して海外選手と市民との交流を企画してきました。今回延期になったことで、交流の企画などもすべて延期や中止になっています。子どもたちが、海外のオリンピアンとふれあうことによって受けるインパクトは計り知れないものがあっただけに、とても残念です。しかしながら、オリ・パラは中止ではなく延期です。大会が開催される時にはまた機会が巡ってくるものと考えたいと思います。だとしたら、延期になった一年間の間にどのようなことができるかを考えることが大切です。ともすればオリンピックが終われば、それで終わりの打ち上げ花火のようなイベントになりがちだったものが、一年延びたことで事前合宿などの招致を契機にどのようにスポーツ振興につなげられるか考える猶予が与えられたと思えば、一過性のイベントに終わらせない事前の活動に十分時間を使えるはずです。

 聖火リレーは日本中を駆け巡るはずでした。東京に足を運べない人たちはこの大きな出来事との関わりを持ちたいと考えて、聖火リレーの見学を考えていたと思います。聖火リレーイベントが無観客で行われることは、日本の人々とオリ・パラとの関わりを絶つことであって、これは避けなければなりません。開催地東京ではない人たちが「日本で開催されたオリンピック」をどれだけ実感できるかが重要なのです。そう考えると、延期されたことで、この関係を絶たれることがなく実施されることはとても良かったと言えます。

 スポーツには、社会的インパクトを生みだす力があります。スポーツイベントを地元で開催することで、地域の人々の地域コミュニティへの愛着や、一体感が高まることが知られています。今回、オリ・パラが延期されたことで様々な影響を受ける方が多くいます。それはスポンサーになっている大企業だけではなく、地域の商店街やラーメン屋さんにまで及びます。オリ・パラ延期によって解決しなければならない大きな課題が生まれたわけですが、それをみんなで乗り越えることで、地域の一体感や新たな人と人とのネットワークが生まれることも考えられます。スポーツは人々に感動をもたらし、子どもたちに夢を与えます。そして私たちは、それらを超えてスポーツに価値を付与してきました。東京オリ・パラは、招致当初 “復興五輪” と位置づけ、東日本大震災からの復興の象徴としての価値を付与しました。今は、コロナウイルスへの勝利の象徴としての価値を与えようとしています。これは素晴らしいことですが、このような価値を政治家が示すのではなく、スポーツ界が、そしてアスリートが示してほしいと思います。東日本大震災のあとは、多くのアスリートが「頑張れ東北」のメッセージを発信しました。そして今、オリ・パラのSNSでは、多くのオリンピアン達がメッセージを発信しています。今こそアスリートがスポーツの価値を発信し、そして困難に直面する私たち一人一人がそのことを自分に置き換えて延期された東京オリ・パラを迎えることによって、大会への思いも深くなり、大会がもたらす社会的インパクトも高まるのではないでしょうか。

 オリンピック・パラリンピックが延期されるのは前代未聞です。このことはオリンピックの歴史に大きく刻まれることになります。世界が注目しているこのときに日本のオリンピックは困難を乗り越えて見事に延期されたオリンピックを成功させることは、私たちの大きな誇りになるはずです。

   冨山 浩三(とみやま・こうぞう) 体育学部 健康・スポーツマネジメント学科 スポーツマネジメントコース。スポーツマネジメント専攻。社会貢献センター長。日本スポーツマネジメント学会理事。

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