障がい福祉サービス事業所の職員らを対象にしたオンライン研修サービスを提供する株式会社リーンオンミー(本社・大阪府高槻市)。障がい者への理解を深めてもらい、真のノーマライゼーションの実現をめざそうと、大阪体育大学OBの志村駿介さんが起業しました。
志村さんは、ダウン症の弟がいることから、障がい者と接するのが自然な環境で過ごす一方で、一般社会の「障がい」との向き合い方に課題を感じてきました。
オンライン研修サービスは、1500本を超える短尺動画の中から習熟度や経験に合わせて選択し、必要な知識を体系的に学ぶことができるもので、全国5200の事業所の累計8万人が利用しています。
「キラリ! 輝く卒業生」——大学時代の思い出や起業のきっかけ、支援者向けの研修の重要性や課題、今後の事業展望などについて、志村さんに伺いました。
障がい者への理解を深めてもらい、真のノーマライゼーションの実現をめざして
――大阪体育大学に進学した理由は。
アメリカにテニス留学をするくらい、学生時代はテニスに打ち込んでいました。大阪体育大学に進学したのは、高校時代のテニス部の顧問が田井台出身で、その影響が大きかったですね。よく練習試合もしていたので、身近な存在でした。保健体育の教員免許も取得できればという考えもありました。
――大学時代の思い出は。
将来はプロテニスプレーヤーになろうと思っていたので、テニス部で全国大会に出場したりと、大学でもテニスに没頭できたことが思い出です。友人に恵まれたことも大きかったですね。自分と向き合う時間が十分にあって、充実していました。
――起業のきっかけは。
大学3年の時に自分将来について考える機会があって、母子家庭で弟がダウン症という家庭環境だったので、経済的にゆとりのある大人になりたいなと考え始めて、そこから企業をめざしました。経営について学びために新卒で回転寿司チェーンに入社して、店舗経営を学んでから起業したという流れです。
――事業内容は。
障がい福祉サービス事業所の職員らが、1本3分ほどの短尺動画で障がい者支援の基礎を学べる「スペシャルラーニング」というサブスクリプションモデルのオンライン研修サービスを提供しています。業界を牽引する専門家の力添えも得ながら、1500本を超える動画を制作していて、新人職員からベテラン職員まで必要に応じて視聴できます。ユーザーからは、手探りで仕事をしていたので知識を得られて良かったとか、時間が取れずに研修ができていなかったので、非常勤のスタッフにも研修を届けられるようになって助かったとか、著名人の話を視聴できて嬉しいとか、そんな声をいただいています。
――オンライン研修サービスに着目した理由は。
起業の当初は障がい福祉サービス事業所でアルバイトもして生活費を稼いでいて、その際にオンライン研修サービスを思いつきました。職人気質の文化も相まって職員が定着しづらかったり、一人で頑張って燃え尽きるまで働いて、持続性のない働き方になっていたりして、そこに介入して標準化しようと。動画で対人コミュニケーションを学べるわけがないと、当初はオンライン研修に否定的な反応もあったのですが、 コロナ禍で非対面型の研修のニーズが高まって、そこから風向きが変わりましたね。サービスを真似する会社も出てきて、市場として動き始めたように思います。
――支援者向けの研修の重要性は。
虐待が発生する一番の要因は知識不足です。例えば、 これをしなかったらおやつ抜きとか、部屋の外へ出さないとか、そういう罰を与えたりと、子育てのしつけの延長で接する支援者もいます。 今は障がいの特性が研究されているので、支援者自身を守るためにも知識を身につける必要があると思います。
――2021年の障害者差別解消法の改正に伴い、2024年4月から、民間事業者にも合理的配慮の提供が義務化された。
合理的配慮は、障がいのある人の困りごとを見つけて、それを手助けしましょうというものです。知的障がいや発達障がい、精神障がいのある人の困りごとを見つけようと思うと、基礎知識がないと見つけられず、結果的に配慮につながらないので、研修サービスのニーズが高まっています。
――障がい者雇用に取り組む民間企業のニーズも拡大している。
民間企業に義務づけられる障がい者の法定雇用率が段階的に引き上げられています。知的障がいや発達障がい、精神障がいのある人を雇用する際のマニュアルの整備や研修などのニーズが顕在化されてきて、企業からの問い合わせも増えてきています。
――内閣府の令和5年度バリアフリー・ユニバーサルデザイン推進功労者 表彰で内閣府特命担当大臣表彰優
事業に対して、多くの審査員から共感をいただきました。表彰式の際に、首相官邸で岸田総理 (当時) にも動画を選んで視聴してもらい、 「いい取り組みですね」と声をかけてもらえて、感慨深かったです。障がい者雇用のコンテンツを視聴していたかと思います。
――大阪 ・ 関西万博の開催に向け、2025年日本国際博覧会協会とアドバイザリー契約を締結した。
知的障がい、発達障がい、精神障がいのある人が来場した際のガイドラインを作成したり、運営スタッフの研修を実施したりというところで関わっています。研修では、障がいのある人が同伴者と来場した際は、まず本人に話しかけてくださいと伝えています。接する機会ができると、もっと適切に対応するにはどうしたらいいのかと意識する人が増えると思います。どんな人にも楽しんでもらえる万博になってほしいですね。
――今年4月、 リーンオンミーは設立10周年を迎えた。 今後の展望は。
自分が思い描いた未来に向かって着実に進んでいるという実感があります。これまでは障がい者福祉の業界向けにサービスを提供することが中心でしたが、これからは色々な企業と協業しながら、色々な形でサービスを広げるところに注力していきたいと思っています。アジア向けのサービスの展開にも関心を寄せています。
――どんな社会になってほしいか。
障がいがある人のことを理解して、どんな手助けが必要なのかを知った上で、普通に接するのが真のノーマライゼーションだと思います。障がいがあることで選択肢が狭まることも多いので、 障がいのある人もない人も同じサービスを受けられることが当たり前の社会になってほしいですね。
(2024年10月 取材)
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