
大阪体育大学卒業生の諸橋銀史(もろはし・ぎんじ)さん(2024年度卒、体育学部)が、東南アジアの東ティモール民主共和国でJICA(国際協力機構)の海外協力隊員として現地の高校で体育の授業を担当しています。
大学では硬式野球部に所属。マルタに留学したことをきっかけに、「海外の教育現場で働きたい」と夢を持ちました。また、中学校や高等学校の保健体育の教員免許を取得していたことが海外での授業に役立ちました。
今年4月から現地で活動する諸橋さんにインタビューしました。

生徒に囲まれる諸橋銀史さん(前列中央) <諸橋さん提供>
◆高校でサッカー、バスケットなどを指導
――4月14日から東ティモールへ派遣され約半年。今はどんな活動を
私は体育隊員として派遣されているのですが、生活環境にも慣れ、現地の先生と協力しながら授業づくりや指導に取り組んでいます。学校では高校生を指導し、午前中に体育の座学、午後にプラティカと呼ばれる実技活動でサッカーやバスケットボールを指導しています。授業がない時間には、座学で使う教材や実技の評価基準などを作成しています。勤務時間外は英語の勉強や筋力トレーニング、散歩などをして過ごしています。

生徒の前で自己紹介する諸橋さん <諸橋さん提供>

現地で使用した自己紹介用のスライド <諸橋さん提供>
――体育の座学とは
例えばバスケットボールなら、ドリブルの技術について1コマ30分を使って指導しています。ドリブルにもさまざまな種類があるため、それぞれの特徴や使い方を紹介しています。また、ポジションについても、センターで1コマ、スモールフォワードで1コマというように時間を設け、各ポジションの役割や重要性、有名選手などを紹介しています。午後の実技では、座学で学んだことを実際に試しています。現地では球技が親しまれていることもあり、授業ではサッカーやバスケットボールを多く扱っています。
◆ゲーム性のある授業を心がける
――授業づくりで心掛けていること
授業内容は自由に任せてもらえるので、色々と工夫をしています。初めは授業の最初にラジオ体操を取り入れたりしたのですが、参加者がどんどん減っていきました(苦笑)。
授業をしていて感じることは、決められた運動を繰り返すよりも、ゲーム性のある活動の方が生徒たちの参加意欲が高まることです。楽しさを大切にする姿勢を尊重しながら、新しい技術を身につける喜びも感じてもらえるよう、生徒たちが授業を通して何か一つでもできるようになることを意識しています。
例えばバスケットボールの授業では、試合中心の活動だったのですが、ドリブルやパス、シュートといった基本的な技能を段階的に練習するようにしています。
その中でも印象に残っているのが、ジグザグドリブルの技能評価です。実施した時、生徒はかなり盛り上がりました。生徒それぞれの技能レベルを確認するため、評価方法や基準を考え直し実施したのですが、大阪体育大学での体育教育の知識・経験が現地での授業づくりに役立っています。

ジグザグドリブルについて説明する諸橋さん。ゲーム性を加えることで、生徒は意欲的になると話す <諸橋さん提供>

座学の様子 <諸橋さん提供>
◆現地の人々の価値観を決めつけないことが大切
――生徒や現地の人々の雰囲気は
生徒たちは基本的に明るく、初対面でも人懐っこいと感じます。一方で私が担当する授業では、開始時刻が予定より遅れたり、持ち物がそろわなかったりすることもあります。ランニングを中心としたメニューや走る動きを取り入れたウォーミングアップなど、ゲーム性の少ない地道な運動を行った際には、なかなか参加してもらえず、指導方法を考え直すきっかけになりました。
現地で生活する中で、暮らし向きには大きな違いがあることにも気づきました。勤務先は私立校で、経済的に恵まれた家庭の生徒もおり、スマートフォンを持っている生徒も多くいます。私自身も首都の便利な場所で生活しており、大きな不便を感じずに暮らしています。
一方、勤務先の近くでは、裸足でココナッツを蹴ってサッカーをする子どもたちや、簡素な住居で暮らす人々の姿も見かけます。同じ地域でも生活環境はさまざまで、限られた情報だけで現地の人々の暮らしや価値観を決めつけないことが大切だと感じています。それでも、私が出会う東ティモールの人々は、暮らし向きにかかわらず笑顔が印象的です。私は考え込みやすく、気持ちが落ち込むこともある性格ですが、現地の人々や生徒たちと関わる中で明るい気持ちを取り戻すことが多く、日々元気をもらっています。

笑顔が素敵な東ティモールの子どもたち <諸橋さん提供>
――文化の違いを感じるときは
まず街にはほとんど信号や横断歩道がありません。道路を横切る時はアイコンタクトで車を止めて渡りますが、初めはとても怖かったです(笑)。
道路では車やバイクの交通量が多く、ヘルメットを着けずにバイクに乗る人や、バイクに二人乗りをする人を見かけることもあります。中学生くらいに見える子どもがバイクに乗っていることもあり、日本とは交通環境が異なると感じます。移動するときは安全に気を配っています。
◆複数の言語が使われる教育現場。いかに言葉以外で伝えるか
――活動していて苦労したことは
やはり最初は語学です。JICAボランティアの派遣前訓練として、1月から福島県二本松市にある訓練所に入り、語学のほか活動するうえで知っておくべきことを集中的に学びました。東ティモールの公用語は「テトゥン語」と「ポルトガル語」で、日常はテトゥン語で話しますが、教育機関や行政の施設などはポルトガル語です。教科書もポルトガル語で作られているので板書もポルトガル語なのですが、会話はテトゥン語で、場所や施設によってはインドネシア語も使われているので、様々な言葉を知る必要があります。授業では言葉だけでは正確に説明できないこともあるので、実技では実際に動きを見せたり、座学では写真や図を使ったりして、言葉以外の方法でも伝えるようにしています。
また、指導する人数もその日によって違い、用具も限られているため予定通りにいかないことも多く、どうすれば生徒全員が活動できるか、どうすれば技能の習得につながるかを考えることに苦労しています。

バスケットボールの守備の説明。ポルトガル語が中心だが、テトゥン語も交じっている <諸橋さん提供>
――それをどう乗り越えているか
言葉については、勉強と慣れだと思います。授業で準備していてもうまくいかないことや、イレギュラーなことは当たり前にあるので、現地の先生と相談しながら少しずつ改善するようにしています。毎回、授業後に内容を振り返り、次は方法を変えてみるようにしています。最初から完璧な授業を目指すというよりも、実践と改善を繰り返すことを大切にしています。
◆運動会が大盛況。楽しさ、面白さを大切に
――これは成功したと感じたことは
他のJICA海外協力隊員と協力して、現地の生徒たちを対象に日本の運動会のようなイベントを実施したことです。綱引き、椅子取りゲーム、ムカデ競争などのプログラムを実施しましたが、大盛り上がりでした。やはり楽しいこと、面白いことをすることが大切なことで、現地の人の感覚を改めて理解できた気がします。

椅子取りゲームで盛り上がる生徒たち <諸橋さん提供>
◆自分の中の「当たり前」がいい意味で崩れた
――現地で生活して新しく得た考え方はあるか
自分の中の「当たり前」が良い意味で崩されていきました。ただ、「当たり前」はその国の文化や事情で成り立ってきたものなので、まずは現地の状況を理解することが必要だと感じています。そのうえで自分なりの考え方を話すようにしていますが、私たちに接することで、現地の人たちにも新しい考え方や興味を持ってもらえたらいいなと思います。
◆野球部の活動と教員免許取得の両立目指し大阪体育大学へ
――大阪体育大学に進学した理由は
野球で甲子園出場を目指して地元新潟の有力校の中越高校で活動していましたが、高校最後の夏は、選手ではなく記録員としてベンチ入りしました。新潟大会で敗れて甲子園に出場できず悔しい思いをしました。選手としてもチームとしても野球への未練が残りました。
まだまだ野球に関わりたい、将来は保健体育の教員を目指したいと考え、両方が実現できそうな大阪体育大学に進みました。

甲子園出場を逃した試合後。選手としてのメンバー入りを逃し、記録員としてベンチ入りした。 <諸橋さん提供>
◆マネージャーとしての役割を自問自答
――どんな学生だったか
大学では明治神宮野球大会への出場に部員として関わる目標がありました。選手としての実力に限界があると自覚していたので、裏方のマネージャーとして入部しましたが、当初は自分本位に動いて空回りし、チーム内で孤立した経験もあります。
なぜうまくいかないのか、マネージャーとしての役割やチームの一員として何ができるかをもう一度考え直しました。改めて周囲の状況を見ながら行動することの大切さを学び、何よりもチーム全体を優先し、自分ができることを考えて行動するようになりました。
自分が4年生だったときの1年生たちが今年の阪神大学野球秋季リーグで優勝目前まで勝ち進み、彼らがチームの中心となって活躍している姿を、本当に誇らしく感じました。
もう一つ、4年生後期に休学し、南ヨーロッパのマルタ共和国へ海外留学したことも印象に残っています。マルタへの語学留学は、人生で初めての海外経験でした。留学中には旅行でフランス、イタリア、イギリス、ギリシャも訪れ、さまざまな経験をしました。異国の文化や価値観に触れたことは、自分の視野を広げる大きなきっかけになりました。

硬式野球部のメンバーとともに <諸橋さん提供>

マルタ留学中、旅行で訪れたフランス・パリのエッフェル塔で <諸橋さん提供>
◆マルタ留学をきっかけにJICAに応募
――JICAの海外協力隊に応募したのはなぜか?
マルタ留学の経験を通じて、将来的に海外の教育現場で働きたいと考えるようになり、国際教育を学ぶため大学院に進学することも選択肢として考えていました。また、JICA海外協力隊のことも大学1年生の頃から知っており、それも選択肢の一つでした。
海外の教育現場で活動でき、教育やスポーツなどさまざまな分野で経験を積めることや、大学で取得した保健体育の教員免許、体育教育の知識、経験を海外で生かせることが魅力的で応募しました。
◆不安や焦りはあったが、両親から応援
――思い切った選択だったのでは
正直、少し不安はありました。大学を1年間休学し、卒業後もJICA海外協力隊への応募・派遣準備に約1年間、派遣活動に約2年間を充てるため、大学卒業後すぐに就職した同年代に比べ、社会人として遅れを取ってしまうのではという焦りはありました。
また、実家は自営業なのですが、両親は将来的に家業を継いでほしいという気持ちがあったようです。そこで自分の気持ちや将来の目標を伝えたところ、最終的には私の夢ややりたいことを尊重し、応援してくれました。
私自身も改めて自分の進路について考え、海外協力隊への参加は将来の目標を実現するために必要な経験だと思い、挑戦することを決めました。
◆帰国後は大学院、インターナショナルスクールの教員に
――任期終了後の進路は
帰国後は大学院で国際バカロレアのカリキュラムを含む国際教育と、ウェルビーイング教育を学びたいです。
国際バカロレアとは国際的な視野を持ち、自ら考え、行動できる人材を育てることを目的とした教育プログラムで、ウェルビーイング教育は、子どもたちが心身ともに健康で、自分らしく生き、周囲の人々と良好な関係を築きながら、よりよく生きる力を育むことを目指す教育です。
私自身も人間関係や心の持ち方について悩み行動できなくなり、人と会うこと自体が怖くなった経験があり、ウェルビーイング教育の、自分だけでなく他者や社会全体の幸せも大切にする考え方に魅力を感じています。
大学院修了後は、海外での経験と知識を生かしてインターナショナルスクールの教員として働き、子どもたちがコミュニケーションや人間関係、心の持ち方について、日常の授業の中で継続的に学べる教育を実践していくことが目標です。
◆学生のうちに挑戦することで新たな目標が見つかる
――大阪体育大学の学生にメッセージをお願いします。
大学生のうちは、将来の目標がはっきり決まっていないことが多いと思いますが、授業やクラブ活動などさまざまなことに挑戦してみてください。自分が興味を持ったことに実際に挑戦してみることで、新しい目標が見つかることもあると思います。
私自身、硬式野球部のマネージャー活動や教育実習、海外留学など、大学時代に経験したことが、その後の進路につながっています。ぜひ、自分の興味や関心を大切にしながら、充実した大学生活を送ってほしいです。

硬式野球部マネージャー時代の諸橋さん




![T[active]](https://www.ouhs.jp/wp/wp-content/themes/ouhs_main/assets/img/nav_department06.jpg)
![T[person]](https://www.ouhs.jp/wp/wp-content/themes/ouhs_main/assets/img/nav_department05.jpg)
BACK
社会貢献・附置施設
BACK