筆者:生田秀和(スポーツ科学部准教授)
「柔道って相手を倒すための競技でしょ?」
そう思っている人もいるかもしれません。たしかに、柔道は投技・固技を駆使し相手を制する競技です。しかし、その本質は単なる勝ち負けにとどまりません。たとえば、稽古時はもちろん試合の前後に必ず行う「礼」。これは、相手を敵ではなく、自分の技の向上を助けてくれた大切な存在として尊敬する気持ちの表れです。柔道では、こうした精神面の修養が重視されています。今日は柔道(武道)を通して「稽古(けいこ)」と「守・破・離(しゅはり)」について紹介します。
1.「稽古」とは?
サッカーやバスケットボールをする時は「練習をしよう、トレーニングをしよう。」といいますが、剣道や柔道、合気道など武道では「稽古をしよう」といいます。また武道では「寒稽古」といって、最も寒い時期にあえて早朝から心身を鍛えることがあります。稽古とは「古(いにしえ)を稽(かんが)える」と書くように、先人たちが伝えてきた技と精神を深く理解し工夫、探求することです。その上達の過程を「守破離」といいます。
2.「守」──基本を守り、身につける
柔道を始めたばかりの人がまず学ぶのは、受け身や礼法、基本の技などです。この初期段階を「守」といいます。指導者の教えを忠実に守り、「形」を真似て反復繰り返します。最初は自分を捨てて繰り返し「まねる」ので窮屈ではありますが、やがて自分にあった技を作り出す上でこの基礎部分は非常に重要であると言えます。
3.「破」──創意工夫し、広げていく!
基本が身についたら、次は「破」の段階です。これは、教えをただなぞるだけでなく、自分なりの工夫を加えて柔道を発展させていく時期です。たとえば、自分の体格や筋力に合う技を選んで磨いていく。また対戦相手の体格を見極め、技の掛け方を工夫する。
この段階では「考える柔道」が大切になってきます。
4.「離」──自分にあった技を自在に繰り出せる
最後の段階は「離」です。これは、基本から自由になり、自分にあった個性的な技を想像し、自分自身の柔道を自然に表現できる状態です。
この「守破離」の考え方は、勉強や人生にも当てはまります。最初は教わった通りにやってみる。そこから創意工夫し最後は自分だけのやり方で実行していく。これはどんな分野でも通ずることではないでしょうか。
5.柔道を通じて、自分を深める
柔道の稽古は、ただ体を鍛えるだけではありません。自分と向き合い、相手を敬い、周囲との関係の中で成長していく時間です。技を学ぶだけでなく、人としての在り方も学ぶことができる。それが柔道の魅力です。もし柔道に少しでも興味を持ったなら、一度その稽古の場をのぞいてみてください。きっと、ただ強くなる以上の何かに出会えるはずです。
【参考文献】
田中 守,藤堂良明,東 憲一,村田直樹(2000)武道を知る.不味堂出版.
生田秀和(スポーツ科学部准教授)
専門はコーチング(柔道)2019年より柔道部男子監督として指導するとともに、柔道における頭部外傷に関する研究をしている。主な授業担当は柔道ⅠAⅠB、スポーツ技術戦術論、武道の形など
関連サイト
○生田秀和准教授
○大体大先生リレーコラム「本物を学ぼう」