子どもの競技力を高める

 近年、日常的な運動習慣のある子どもと運動習慣のない子どもの二極化が進んでいることが指摘されていますが、「もうひとつの二極化」も深刻な問題として広く認識されるようになってきました。「もうひとつの二極化」とは、定期的にスポーツ活動には参加しているものの、実施しているスポーツに含まれる動作の習得にとどまり、結果として運動量(歩数)は確保されていても基本的な動作の習得に問題がある状態のことを言います1)。
 また、幼児期の運動発達で重要なことに経験する運動の多様性があり、同じ動きを繰り返して行うよりもいろいろ変化をつけた動きを経験する方が学習効果は高くなることが知られていますが、多様性練習効果と呼ばれています2)。国内の一流競技者のへの成育歴・競技歴に関する調査研究においても、競技者自身の過去(5、6歳頃から8歳頃)において、鬼ごっこや水泳、ボール遊びなど屋外で行う活動的な遊びを積極的に行っていたことが報告されています3)。
 さらに、エリートスポーツ選手において、多様なスポーツ活動への参加経験がある者が多いとの報告もあります。フィールドホッケー、野球およびネットボールのエリート選手は、エキスパートレベルに達する前に多くのスポーツ活動に参加していたことが認められています3)。
 また、アイスホッケー選手では、6歳から8歳までは平均で3種目、9歳から12歳までは平均で6種目までのスポーツに参加していたとの報告もあります4)。
 したがって、子どもの頃はひとつのスポーツに専念するのではなく、いろいろなスポーツを楽しむことが重要であることを示唆しています。
 子どもが実施する運動やスポーツの単一化や固定化を回避する仕組みがある国もあります。
 ニュージーランドは南半球に位置することから日本とは季節が逆で、10月から3月までが夏期、4月から9月が冬期ですが、夏期にはクリケット、ボート、タッチラグビーといった夏スポーツ、冬期にはラグビー、サッカー、バスケットボールといった冬スポーツが行われています。したがって、ニュージーランドの高校生は、夏期と冬期では異なるクラブ活動を行うことになります。ニュージーランドでは複数の種目に取り組むことは一般的なことであり、小さいときには5種類ぐらいのスポーツを行い、15歳頃で1~2つのスポーツに絞るようです。
 したがって、子どもにおいては、ひとつのスポーツのみを経験させるのではなく、いろいろなスポーツを経験させる方が将来、スポーツ選手として大きく伸びる可能性があることを示唆しています。一方、ひとつのスポーツ活動に参加していたとしても、例えば野球選手がサッカーを行うなどいろいろな種目にチャレンジする機会が設けられているなら、無理に他のスポーツに参加する必要はないのではないかと思います。子どものスポーツの指導者においても、複数のスポーツ活動を行うことは若干遠回りしているように感じるときもあるかと思いますが、未来ある子ども達のためにも、いろいろなスポーツを積極的に取り入れてみて下さい。

(参考文献)
1)中村和彦(2010)子どもの動作の発達と指導~体力・運動能力にみる現代っ子の問題~.子どもと発育発達,8,42-45.
2)酒井俊郎(2007)幼児期の体力づくり.体育の科学,57,417-422.
3)関岡康夫,松井秀治,宮丸凱史,市村操一,菅沼史雄,勝亦紘一,小林寛道,天野義裕,有吉正博,岡野進,石塚浩,尾縣貢,加藤謙一,中村和彦,森田正利(1991)陸上競技の指導カリキュラムに関する調査研究-カリキュラムのあり方と基本構想-.平成2年度日本体育協会スポーツ医・科学研究報告,No. V競技力向上に関するスポーツカリキュラムの研究開発-第3報-,9-38.
4)Soberlak P and Cote J (2003) The developmental activities of elite ice hockey players. Journal of Applied Sport Psychology, 15, 41-49.

スポーツ科学部 教授
大学院 スポーツ科学研究科 スポーツ生理学

三島 隆章

専門分野:運動生理学、発育発達学

スポーツ生理では筋疲労と細胞内小器官である筋小胞体の機能変化との関連性、発育発達では特にスポーツで重要とされる体力・運動能力の発達の様相に着目して研究を行っています。